イワケーン日記

何かを巻き起こす良いハリケーンでいたい。建築・インテリアデザインの仕事がメインです。このブログに書いているのは正しい意見ではなく、「僕が感じたこと」の記録です。@iwakeen1017

【読書感想】アルケミスト 夢を旅した少年 パウロ・コエーリョ

 

本書は、1988年にブラジルの人気作家パウロ・コエーリョの「エル・アルケミスタ」として出版されました。原文はポルトガル語であったが1993年に著者とアメリカ人のアラン・クラーク氏が協力して英訳し、日本語訳は1994年に地湧社が単行本として出版、その後角川文庫の一冊として出版されました。今回、私は角川文庫の一冊を読みました。

 

1.あらすじと本書の読み方

羊飼いの少年サンチャゴが「夢」に従って旅に出て、ついには錬金術師の秘密を手に入れるという童話風の物語になっています。ここでいう「夢」は就寝中に見る「夢」のことで、サンチャゴはピラミッドに宝物があるという夢を見たためにそれを確かめるべく行動します。最初は就寝中の夢を確かめるべく冒険する話に過ぎないのですが、徐々に読み進めると様子が変わってくることに読者は気付かされます。読者側からすると、この夢は「人生で追い求めたい夢」であることに気づきます。物語のサンチャゴの夢と、読者の人生の夢という2つを重ねながら物語は展開し、旅の途中に登場するキャラクター達との対話によってサンチャゴは心を強くしながら旅をします。

 

2.旅の途中で出逢う「夢を諦めた大人たち」

少年サンチャゴは目標とする旅の途中で様々な大人たちに出会います。叶えたい夢があるにも関わらず諦めてしまった者、行動すれば叶えることが出来るがあえて行わない者など各人により事情は様々で、少年サンチャゴはその事情に傾聴し、自身に置き換えて思索しながら旅を続けます。その内に夢に向かうだけの気持ち以外の不安や憶測が心に芽生え始めます。

 

3.錬金術師との出会い

少年サンチャゴは、旅の終盤に砂漠で一人の錬金術師に出会います。サンチャゴにとってその錬金術師は全てを知っているように見え、自身の考えていることや疑問などを錬金術師に問います。錬金術師はサンチャゴを導くように回答していきます。ちなみにアルケミスト は錬金術師という意味です。

 

少年「心は僕に旅を続けてほしくないのです」

錬金術師「夢を追求してゆくと、おまえが今までに得たものをすべて失うかもしれないと、心は恐れているのだ」

少年「それならば、なぜ、僕の心に耳を傾けなくてはならないのですか?」

錬金術師「なぜならば、心を黙らせることはできないからだ。たとえおまえが心の言うことを聞かなかった振りをしても、それはおまえの中にいつもいて、おまえが人生や世界をどう考えているか、くり返し言い続けるものだ」

少年「たとえ、僕に反逆したとしても、聞かねばならないのですか?」

錬金術師「反逆とは、思いがけずやって来るものだ。もしおまえが自分の心をよく知っていれば、心はおまえに反逆することはできない。なぜならば、おまえは心の夢と望みを知り、それにどう対処すればいいか、知っているからだ。おまえは自分の心から、決して逃げることはできない。だから、心が言わねばならないことを聞いた方がいい。そうすれば、不意の反逆を恐れずにすむ」」

(『アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫)』(パウロ・コエーリョ, 山川 紘矢, 山川 亜希子 著)より)

錬金術師との対話です。

旅を進める内にサンチャゴは「本当にこの旅は達成できるのか」と疑問を持ち始めます。それに対して賢者である錬金術師は、サンチャゴの不安を正確にとらえます。結論から言うと、この疑念の心の声はちょっとしたアクシデントであり対話の中では「不意の反逆」と呼ばれてます。心の声は、無視したところで何度も繰り返し問いかけてくるので耳を傾けるべきである。しかし、不意の反逆の心の声が稀に聞こえることもあるだろうが、あくまで不意であり本当の心の声はどのような声なのかを聞き逃してはならず、日頃からしっかり自己の心の夢と望みを知れば不意の反逆は起こらないと私は解釈しました。錬金術師は非常に冷静で、心の疑念や不安は、取り除くべきだと言っているわけです。

 

少年「人は、自分の一番大切な夢を追求するのがこわいのです。自分はそれに値しないと感じているか、自分はそれを達成できないと感じているからです。永遠に去ってゆく恋人や、楽しいはずだったのにそうならなかった時のことや、見つかったかもしれないのに永久に砂に埋もれた宝物のことなどを考えただけで、人の心はこわくてたまりません。なぜなら、こうしたことが本当に起こると、非常に傷つくからです」 「僕の心は、傷つくのを恐れています」

錬金術師 「傷つくのを恐れることは、実際に傷つくよりもつらいものだと、おまえの心に言ってやるがよい。夢を追求している時は、心は決して傷つかない。それは、追求の一瞬一瞬が神との出会いであり、永遠との出会いだからだ」 「夢を追求する一瞬一瞬が神との出会いだ」と少年は自分の心に言った。」(『アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫)』(パウロ・コエーリョ, 山川 紘矢, 山川 亜希子 著)より)

「自分の一番大切な夢を追求するのがこわい」、私がこの物語で最も印象に残ったセリフでした。子供でも当初は夢を追いかけることに何ら疑念がなかったはずです。しかし周囲との比較や意見によって又は自己への問いかけの中で「自分は夢の達成に値しない」と考えてしまいます。夢を追いかけたばかりに愛する人との過ごすはずだった時間を失うかも知れない、逆に夢を追いかけないが故に探せば達成できなのではないだろうかと永遠に考えるかも知れない。考えるだけで怖く、それは心が傷ついてしまうからだとサンチャゴは錬金術師に伝えます。どちらも誰もが考える人生の怖さではないでしょうか。本書ではっきりと意識するまで私は自身の中で似たような感情があっても抽象化して曖昧な感情へと変えていた気がします。本当に怖いものに対峙することは非常に勇気がいることです。勇気がなければ、避けたり又は無かったものにしておくと言うことにしがちですが、その分サンチャゴは非常に勇気があるなと私は感じました。

 

4.その後の展開、書籍の個人的感想

少年サンチャゴと錬金術師は旅を共にして、結論だけ言うとサンチャゴは夢を達成する形で物語は終結します。以下は個人的な感想です。この本で伝えたかった内容は、最終の夢の達成ではなく、道中の夢を追求する姿勢であると私は考えます。いたずらに「夢を追い続けよ!」という内容ではなく、文中には深い洞察が散見され、夢を追いかける人の繊細な心理が描かれています。読者は自身の心理状態と重ね合わせることで、知り得なかった自己の心理を知ることができるのでないでしょうか。その意味で本書は童話というより自己啓発に傾倒している様に私は感じました。自分の頭ではなく心に訊いてみて一体自分は何を人生で追い求めたいのか。じっくり考えて行動に移すにはうってつけの本であると私は思います。