イワケーン日記

何かを巻き起こす良いハリケーンでいたい。建築・インテリアデザインの仕事がメインです。このブログに書いているのは正しい意見ではなく、「僕が感じたこと」の記録です。@iwakeen1017

ハマトンの知的生活のすすめ

1.知的生活とは何か。

約150年前にイギリス著述家として活躍したフィリップ・ギルバート・ハマトンの知的生活のすすめについて僕が気になった部分を抜粋した。幼少期に自身も画家を志していたハマトンはその後、美術誌の編集者として活躍した。数多くのアーティストが如何に傑作を生み出したのかを間近で見ていたからこそ、その慧眼を持って書き記した「知的生活」。現代においても役立つ部分が多くあると僕は感じた。

 

そもそも知的生活とは、本書にそのような記述はないが、随筆や文学、芸術などありとあらゆる人間らしい活動における知性あふれる時間を過ごす事を指すと僕は思う。また、人生の中で人間として生きていると実感できるのは知的生活にどれだけ時間を投下できたが大きく左右するのではないかと僕は思う。しかし知的生活は、日々の時間において非常に取ることが困難だ。何故なら、毎日の仕事や、雑事、他人に奪われる時間など、24時間の内に取れる時間は限られている。ハマトンは、知的生活の重要性と、どの様にして時間を取るべきなのか具体的に教えてくれる。この記事では本書でハマトンが取り扱った中でも特に「時間」に関わる内容について掘り下げる。

 

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2.時間の節約の最善の方法

「知的生活者が時間節約をする最善の方法は、何かを勉強するときには、それを必ずものにするという強い決意をもって臨むことである。しかし、もしその勉強が自分にはどうにも手に負えないものであると判断したときには、潔く自分の限界を認め諦めることだ。その判断を誤って自分にはできないことを、いつまでも追いかけることは人生最大の時間の無駄である。」(『ハマトンの知的生活のすすめ』)

最大の時間節約術は、時間の無駄に値するものに時間を費やさないことだ。言われてみれば当たり前のことだが、何かを実践している人間からすると耳が痛い。諦めなければ大丈夫というのは、僕はかなり危うい考え方であると思う。自分の相性の悪いことを無理やり覚えたり習得しようと試みる事はもちろん無駄ではない。しかし、それは当人にとってメモリの無駄遣いを意味していて、到底ものにできる様にはならない。つまり、内省の無さがこの様な状態を生むとも言える。まずは自分にそれが「本当に合っているのか」「本当に手に負えるのか」を立ち止まって考える必要がある。

 

3.自分の限界を明確にし、他は排除する

「自分の限界を明確にする」。自分がものにできそうな勉強以外はすべて断念し、時間と決意の両面で自分がものにできそうだと思う対象に集中して勉強すれば、時間節約もでき大いに効率もあがる。しかし、それ以上に大切なことは、今後集中して勉強していくことについて、今後その勉強をどの程度まで進めていくべきかという明確な限界を設定することである。」(『ハマトンの知的生活のすすめ』)

巷の自己啓発本などで「自分の限界は自分で作っているだけだ」というキャッチフレーズをよく目にする。だがハマトンは、そういう思考には反対の様だ。自分にものにできそうでなければやらないという思考である。例えば根暗な人が芸人の様に明るく人を笑わせようとするのには無理があるし、どう考えても無理があるというのは、つまりその人の限界である。限界を知ることが悪いことの様に捉えられる世の中は大変窮屈であると僕は思う。自分に合うことは他人に聞いても答えは出ない。自分に何度も問いかけて、孤独の中で方向性を見出すしかない。

 

4.勉強の範囲を絞れ

「勉強の範囲を絞れ。 たとえば、植物の勉強をするにしても、世界中に無数にある植物の標本を作ろうとするよりも、自分が住んでいる谷の植物標本を作るというように、より狭い範囲の中で明確な限界を設定するほうが、よほど入念かつ神経の行き届いた価値ある仕事ができるだろう。」(『ハマトンの知的生活のすすめ』)

自分の知的生活に関する方向性をある程度決めたのであれば、次にすることはさらに範囲を絞ることだ。なぜそんなに絞る必要があるのだろうか。ハマトンは引用の様に範囲が狭い内容を深く考察する方が「価値が高い」という。しかし僕は別の考えを持っている。範囲を絞るのは毎日時間を充てる箇所を絞ることでその純度を高めることが期待できるからだ。最初にも書いたが、24時間で知的生活に費やせる時間はごく僅かだ。小説であれば3ページ書くだけとか、絵であれば少しの影を描くだけなど少量しか進める時間しかないだろう。そもそも無数にあるものに時間を費やせるほどの時間がないというのが僕の考えだ。

 

5. 10年がかりでの時間の計算ミスをするな

「時間の見通しを誤る単純な理由 不思議なことだが、10分や10時間でやれるようなことなら非常に正確に時間を計算できる人が、10年がかりでやるべきことについては愚かなほどの計算間違いをしてしまう。 では、なぜそんな計算間違いをしてしまうのだろうか。それは、毎日の食事時間や睡眠時間などを削って頑張れば、今後10年間でこれまでの10年間よりもはるかに多くのことができると考えてしまうためだ。 つまり、食事時間や睡眠時間などには伸縮性があり、自分の心がけ次第でいくらでも縮めることができると安易に考えてしまうのだ。ところが、実際にはこうした時間の伸縮性には限度があり、節約できる時間は思ったほど多くはないのである。」(『ハマトンの知的生活のすすめ』)

本書の中で僕にとって最も参考になったのが、この一節だ。10分、10時間なら正確に見積もることができるが10年の計画になった途端に、時間を見誤るミスに発展する。それをハマトンは日常の時間(睡眠、食事時間)を伸縮して計画することがミスの原因だという。非常に切れ味のある一節であると僕は感じた。このミスを回避するには、24時間の内にどれだけ正確に知的生活の時間を確保できるのかどうか、そしてその時間に具体的に何をするか、どのくらいの速度で進めるのか定量的に計測しながら1週間、1ヶ月、半年、1年という時間の経過と成果を計画できるかが必要になると僕は考える。さらに、ハマトンは時間の伸縮性について下記の様に述べている。

「時間の伸縮性には限界がある 時間には自分の心がけ次第で、ある程度延ばしたり短縮したりできるという伸縮性がある。しかし、こうした時間の伸縮性というのはゴムのように際限なく伸び縮みできるような伸縮性ではなく、むしろ皮のようなはっきりとした限界がある伸縮性だと思ったほうがいい。 本当にうまく時間節約のできる人とは、時間の伸縮性をよく理解している人のことだ。時間の伸縮性を理解すれば、何時間でどんなことができるかを正しく判断できるだけでなく、何年でどのぐらいのことができるかということについても幻想を抱くようなことはない。」(『ハマトンの知的生活のすすめ』)

時間節約ができる人間は、時間の伸縮性の限界を理解しているかどうかである。時間の計画は近い未来を予測するに等しいと僕は考える。是非、内省のタイミングで自分の人生をどの様に計画するのか、時間の伸縮性を考慮して実践したい。

 

6.何をやらないかを決める

「何をやるかより何をやらないかを決める 人生は短く、時間は矢のように過ぎ去っていくものであることは誰でも知っている。しかし、そうした時間の制約の中で何をやり、何をやらないかを正確に判断することは、豊富な人生経験とすぐれた知恵がないとできない。人生においては、何をやるかということよりも、何をやらないかを決めることのほうがはるかに重要なのである。」(『ハマトンの知的生活のすすめ』)

この件に関しては、ジョブズの発言や著名人がよく口にする内容と重複する。僕としては、何をやらないかを決めるというのは「やらないことを捨てる」と置き換えて考えている。決めるというのは、意外と難しい。なぜなら精神的な変化であり物理的に見えないために本当に自分の中でやらないと決まったかどうかが分からないからである。だから僕は物理的にも可能な捨てるに置き換えた。実際に身の回りにあるものをたくさん捨ててみた。例えばテレビだ。テレビを見ないと決める、ではなく、見ないためにテレビを捨ててしまう。そうすると結果的にやらなくなるからだ。こうして精神的に「やらないを決める」を物理的に「捨てる」ことで時間の節約を行なった。

 

7.一番快適な時間帯に知的生活を行う

「一番快適な時間帯に一番大切な仕事をする 時間という問題は知的人間にとって最も大きな関心事の一つだ。なかでも一番重要なのは、一日のうちどの時間に一番注力する仕事をやるかということである。 それは昼であっても夜であってもかまわない。重要なことは、自分にとって一番快適だと感じる時間にその仕事をすることだ。」(『ハマトンの知的生活のすすめ』)

最後に、知的生活をいつするかについての一節だ。朝晩などの時間帯であるのか、それとも人と接しないタイミングなのかは人による。24時間の内に一番行いやすいタイミングを色々と試してみてカチリと嵌った時を知的生活に費やす。

 

2000年前のローマ哲人であるセネカは、著書「人生の短さについて」で如何に人生の中で、自分のために自由に使える時間(知的生活)が短いものであるかを説いた。第二次世界大戦でナチズムによって亡命をせざるを得なかったユダヤ人の哲学者ハンナ・アレントも同様の時間を「観照生活」と呼んだ。各時代で一体自分に対する時間を何に費やすべきかという問題は常に扱われてきた。賢者と呼ばれる方の声を本を通して、僕も自分の中に取り入れていきたい。

 

 

ハマトンの知的生活のすすめ

ハマトンの知的生活のすすめ

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